自作アナーキー短編小説「マスク」

※今回はデビット・リンチにインスパイアされ、短編小説を書いてみ
ました。頭痛がしてくるような訳の分からない話を意図的に書きました。
支離滅裂で、矛盾していて、意味不明なシュールな作風です。そういった、
オートマニズム的インプロヴィゼーションな作風に魅了され、書きたく
なったので書いただけで、読者には一切理解されないのは承知の上でアップ
します。考えながら書きましたが、こういった作風は難しいです。

「マスク」

今、私は、何処に向かっているのだろうか。

数分前までの記憶が一切無く、ここが何処で、私が誰なのか思い出せない。
いわゆる、記憶喪失だろう。

くたびれたスーツ姿で、ポケットにはタバコと、数千円の現金と、小瓶に液体が入っている
が、その液体が何かも当然分からない。蓋をあけ鼻を近づけるが匂いはしない。
舐める勇気は無く、蓋を閉めポケットに戻した。

初めて来た場所なのか、何度も来た場所なのか思い出せないが、ありふれた
ベーコンの畑と焼き鳥の畑の間の道をただトボトボと歩いている。
空にはたくさんの魚達が泳いでいて、なんとものどかな風景だ。

夕日が沈みかけ、周りの風景が霞み出してきた時、喫茶店らしきログハウス
の小屋を見つけた。店の名前は・・・「マスク」・・・

腹もすいているし、ここの場所が何処なのか聞くのにも丁度いいので
茶店「マスク」に入った。

カラン、コロン。

「いらっしゃいませ」

声を発した、喫茶店のマスターらしき相手を見て、思わず仰け反った。
ウサギだ。ウサギがエプロンをつけ立って、こっちを観ている。

ウサギが「何にいたしましょうか?」と喋ってきた。

いや、喋ってはいない。じっと、目を見て脳に直接喋りかけてきた感じだ。

「あ・・・えっと、ステーキとかありますか?」と尋ねると、
「はい、かしこまりました」と店の厨房へと下がっていった。

店内には高級オーディオから、ゆったりとした幻想的な音楽が流れている。
その音楽を堪能しながらタバコに火をつけた。

ガガガガ・・・。オーディオの調子が悪いようだ。ノイズが混じってきた。

そのノイズの音がどんどん大きくなってきた。

「お前がくると雰囲気悪くなる」
「お前のせいでプロジェクトは失敗した」
「お前と飲むと酒がまずくなる」
「お前は会社のお荷物」
「お前に存在価値は無い」

ノイズが言葉に聞こえてくる。
何だか分からないが、頭がガンガンしてきた・・・。

ピー・・・突然、店内のFAXから紙が出てきた。

FAXには男の写真がプリントされていた。見覚えがあるような、無いような。
でも、その顔写真を見ると、すごく不愉快な気分になった。

FAXからは次々に、色んな顔の写真が送られてきた。

どの写真も、人を下げすさんだ目つきで、不快になる写真ばかりだ。

ガーガーガー、FAXは紙切れを起こしたようだ・・・・

FAXの機械からジェル状のドロドロした緑の液体が出てきた。

ウサギのマスターを呼ぶが、返事が無い。

動揺して、オロオロしていると、FAXの機械からジェルまみれの
人が出てきて、怨念のこもった声で「お前のせいで会社が潰れた」
「お前のせいで社長が首くくった」と、私の元に近づいて来た。

ウサギのマスターが血まみれで、「ステーキお待たせしました。
私の身を切り刻んだステーキです」と、テーブルにステーキを
運び終えると息絶えた。

カウンターの奥では、すすり泣くウサギの子供たちが、こっちを睨ん
でいる。

悪夢だ、悪夢だ、と、怯えながら、店のはしに逃げる際、ポケットから
液体の入った瓶が転げ落ちた。

そのビンを見て、ジェルまみれの男も、ウサギの子供たちも怯えている。

何か分からぬまま、瓶を拾い、彼らの目の前に突き出すと、後ずさりして
いる。瓶の蓋を開け、彼らにかけると、シュワシュワーと溶けていき、
ログハウスの喫茶店も無くなり、情景が一変し、スクランブル交差点で
人ごみの中に紛れ込んでいた。

カット!

何処からとも無く大声が聞こえた。

「良かったよ。おつかれさん。」と、ネガホン片手の髭の人が肩をたたいた。

女性たちたが、近づいてきて、上着を着せ、飲み物を手渡され、顔のメイクを落と
された。「凄くいい迫真の演技でしたね」

「ああ、そうかい、ありがとう」あ、そうだ、私は俳優の桐山とおるだ。
スタートのカチンコが成ると、私は自分を失い、芝居である事も忘れてしまう。